~墨黒~
対馬(厳原町) 椎根の石屋根倉庫(高床式にて平柱を使用) 編集局イメージ
板石をもって屋根を葺く習俗がいつ頃から始まったのかは、明白ではありませんが、瓦より堅固な石材が容易に得られる地方では、古くからあったと考えられます。
現在椎根で見られるような整形した石は格別で、この厚い砂岩の板石は浅海の島山から運んだと言われています。
この石屋根はどこも小屋と呼ばれる倉が主で、人家には使用せず※、衣類の櫃と穀類の俵等が格納されていたそうです。
対馬の集落の佇まいは、人家の火災や台風等から小屋だけは残るように配慮され、人家と小屋は離して(離れ)建てられています。
※瓦屋根は武家しか使用できなかったため、一般住居の屋根は木の皮で葺かれいました。
椎根はそれが特によく分かり、人家は両側の山際に一列に並び、中央を流れる川の両岸に小屋が群をなしています。
長崎県対馬市 リアス海岸と漁火 編集局イメージ
日本地図 対馬・壱岐・五島ほか・・・ 編集局イメージ
林 英光先生の寄稿文を拝読して・・・
私観ですが、大気を通して見る日本の景色の色彩は実はかなり彩度が低い、グレイッシュなトーンで構成されているのでは?と思います。
奄美市住用町「住用内海公園」海岸 編集局イメージ
森や山の樹々の緑も彩度の低いグレイッシュ~ダークトーンのグリーン、
海もペール~ライトグレイッシュの淡い水色、曇りの冬はグレイそのままの鉛色です。
奄美大島 土盛海岸 編集局イメージ
近くから見ると確かに鮮やかな樹々の葉や海ですが、
その大気のフィルターをはさむことによって遠景になればなるほど彩度が低くなる。
奄美群島 与論島(よろんじま) 編集局イメージ
ものの色の彩やかさを低めるごく薄いグレイのフィルター、日本の大気はそんなイメージです。(空の青い光が散乱しているので厳密には青味がかったグレイ)
そこに、景観・環境デザイナー林 英光先生のご教示、「人工物の色は自然物より彩度を低くするとよい」と、先生が景観デザインされる際に公共施設のカラーに採り入れられる「墨黒」色をあてはめて日本の景観に合う建物の色彩を考察してみます。
飛騨市古川町街並み 瀬戸川を泳ぐ鯉たちの涼やかなこと・・・ 編集局イメージ
季節や撮影時刻によって羽目板の色も微妙に変化します。意識して「黒」を強調しました。
建築物の背景を彩度の低いフィルターがかかったグレイッシュトーンのグリーンの山森と仮定します。
その背景より彩度の低い色はほぼ無彩色なので、「白・グレイスケール・黒」から選択してみます。
さて「黒」でもいいような気がしますが、日本の優しいグレイッシュグリーンに合わせるには、少々サディスティックに感じます。有彩・無彩と、明度の対比が案外きついのでしょう。
そこで「墨黒」。
伊豆 漆喰の町 松崎町商家 編集局イメージ
「黒」よりほんの少し明度を上げてグレイッシュグリーンにトーンを近付けた「墨黒」は、より繊細な調和を感じる組合せになるかと思います。グレイッシュグリーンに対して「痛くない」というか・・・。
長野県 中山道「妻籠宿」 編集局イメージ
逆にこれより「明るいグレイ」にするとぼやけてしまうのかもしれません。
また、「墨黒」は単純な「濃いグレイ」ではなくて、ごく微量のラメ感と赤味が入っているように私は感じます。
三重県亀山市「亀山夏祭り」 編集局イメージ
東海道46番目の宿場町。東の端・露心庵跡から西の端・京口門跡まで、約2.5kmが亀山宿になります。有名な歌川広重「保永堂版東海道五十三次雪晴」は、「亀山に過ぎたるもの」とうたわれるほど豪華だった京口門を描いたもの。
亀山は宿場町であるとともに、 亀山城の城下町としての顔も持っていました。
そのため、見通 しのきかない曲がりくねった複雑な道や坂道が多く、城下町らしい特徴的な町並みとなっています。
宿場は栄えていましたが、藩領内に幕府直轄の宿場が置かれたので、参勤交代で通 る大名達は亀山宿に宿泊するのを遠慮したといわれています。
飛騨高山 雪の夜 べにがら格子の古い町並みに真綿のような雪が降る 編集局イメージ
色面に奥行きがあり、低い色温度の施設照明光源と相性が良いです。
こうして考えてみると、日本の建物に「墨黒」はなかなかピンポイント的にベストな配色のひとつかと思います。
長野県千曲市 城山史跡公園(荒砥城)城の形は連郭式山城です。 編集局イメージ
協力:長野県観光機構
長崎県対馬市 金石城 編集局イメージ
寛文5年(1665)、宗義真は国分寺を日吉に移転し、金石屋形を拡張しました。城郭を整備し、大手門に櫓を建て、多門櫓を造ったのが同9年で、これより「金石城」あるいは「府城」ともいいますが、天守閣は造りませんでした。
青森県弘前市 弘前城 編集局イメージ
木曽路 奈良井宿 編集局イメージ
旧中山道の奈良井宿は、鳥居峠上り口にある鎮神社を京都側の端に、奈良井川沿いを緩やかに下りつつ約1kmにわたって町並みを形成する、日本最長の宿場です。
「墨黒」色を持つ、昔ながらの無釉の和瓦、焼杉板の外壁材などは景観の美しさの意味でも日本の風土の理にかなっていたのかなと思われます。
日本の山や森林をバックにした城郭建築や、日本在来の木造の宿屋が連なる街道がイメージできます。
アクセントは「黒」ではなく、比較的小面積にあしらった
漆喰壁の「白」が粋です。
この配色の考え方の戸建て住宅の外装材コーディネートのパースです。 Ⓒ高瀬俊輔
井波彫刻の町並み、メインストリート八日町通りの両側には井波彫刻の工房が軒を連ねる。正面は井波別院瑞泉寺(山門、本堂) 編集局イメージ
ただそれでは日本の景観デザインの色彩プランにおいて有彩色は使えないのでしょうか。
そんなことはないはずです。
林先生は、活き活きとした彩やかな色を採り入れつつ、日本の景観と見事に調和した色彩計画をされています。藍色、弁柄色、柿渋色などは環境に採り入れてきた日本の在来色です。
岐阜県飛騨市 べにがら※格子の「深山邸」 編集局イメージ
※滋賀県ではベンガラと言っています。
べにがらや漆塗等繊細なデザインの室内(建具…) 飛騨市 深山邸 編集局イメージ
デザイナーとしてそれらの色を使いこなすには、もともと日本の風土にある材料、由来や気候環境との必然性をよく識り、色と同時にその風合いやテクスチュアを感じとることにヒントがあるのかもしれません。
(大学にて林 英光先生にご教授をいただきました。)
寄稿文
インテリア・空間デザイナー 手描きパースライター
タカセドローイングアトリエ 高瀬俊輔
愛知県立芸術大学卒業
※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。
発行元責任者 鎹八咫烏(ZIPANG TOKIO 2020 編集局)
早速、寄稿文をご覧になられた、筆者の恩師 林 英光先生から当編集局宛にメールを戴きましたのでご紹介いたします。
この度の大雨による被災地、東北・北陸・関東地方の皆様にお見舞い申し上げます。
新たな台風が静岡・関東・東北地方に接近しておりますので、くれぐれもお気を付けください。
高瀬 俊輔さんの日本の伝統色彩についての、分かりやすく穏やかな言い方での寄稿文は、読者にも共感を持てる説明だと思います。
いずれにしましても、日本の風土と調和する基本は白黒グレー自然素材色の上に成立した、日本人が美しく見える究極の色彩環境です。これをベースに新たな色彩環境が生まれることが未來の幸せな日本になるでしょう。これからも気長によろしく展開してくださる事を期待しています。
環境ディレクター 林 英光
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