合掌
桃源郷のフンザから中央アジアのオアシス都市へ
2003年8月、私達調査隊員5名(隊長日原)は〝紅花のルーツを訪ねる〞と題する映像作品アーカイブス化を目指し、第二回目のウズベキスタンへと出発しました。
ウズベキスタン共和国 古都サマルカンドはティムール帝国の首都としても有名な観光地
首都:タシケント 。民族:ウズベク系(83.8%)、タジク系(4.8%)、カザフ系(2.5%)、 ロシア系(2.3%)。言語:国家語はウズベク語、 ロシア語も広く通用。
宗教:主としてイスラム教スンニ派。(外務省中央アジア・コーカサス諸国の横顔より)
谷地八幡宮 林家舞楽「陸王」
山形県の国指定重要文化財、林家舞楽は 日本三大舞楽(宮廷舞楽、四天王寺舞楽、林家舞楽)のうち、最も古い形式を伝えている。この陵王の装束は当地(現在河北町)が紅花畑の最適地として栄えたことから、紅花染を代表する演舞衣裳である。
山形県河北町 紅花資料館「紅花畑」
八坂神社 祇園祭 祇園甲部歌舞会「祇園舞妓の小町紅」
山形の紅花畑は明治初期、科学染料により草木染めは姿を消
しても今尚、宮中の伝統行事や法隆寺のお水取りには儀式に則り、紅花染めが用いられる他、祇園舞妓の小町紅は今も生き続けている。
〝紅花〞のタイトルを冠したのは、江戸時代、山形県の華々しい基幹産業であり、県花でもあったからです。
第一回目は予備調査(2002年5月)として、パキスタン最北西部の、桃源郷とも呼ばれる杏子の花で有名なフンザ(古代はチベット領王国)でした。
住民は前3世紀のアレキサンダー東征時の疲弊残留した兵士末裔とも…こちらはシルクロードからインドへの往来道ですが、二つあるルートの一つ、カラコラムハイウエイの1本道を5千〜8千m級の山岳地帯を縫う大変険しい断崖絶壁の悪路(イスラマバードからクンジュラフ峠を越えて西域カシュガルとを結ぶルート上)の谷間にある、大変美しい里でしたが、初めから最後迄命からがらの洗礼を受け、残る4回の本調査への基本知識と心構えへを試される過酷な予備訓練でした。(ご関心あれば映像作品を…)
ウルムチから北西部に広大な紅花栽培のジムサル市が存在
さて、ここは割愛して、ウズベクに話をもどしましょう。
実はこの調査開始前から、既にシルクロードには野生の紅花は皆無だとされていたのですが、私共調査隊の命題は砂漠環境における人々の生活実態を色彩の視点で捉える…アーカイブスなので、紅花の有無は敢えて問わないという前提での各隊員役割分担でした。
5年間の調査期間(2002〜2006年)にわたる各国での聞き込みですら、その亜種らしき群生は発見しても、乾き切った大地には一輪も見かけることは皆無。
遂に、その存在を諦めていました。しかし、ウズベキスタンでは、首都タシケントから北方約150㎞離れた郊外に薬用、採油用の紅花畑があるとの情報に、すぐさまジープを飛ばしたのです。
確かに大地に咲いていた紅花畑を現認した時には調査隊一同大歓声を挙げたものですが、殆どは刈り取られた枯れ花の風景で、落胆した我々に同情した運転手が、再びタシケントに戻り、大ドーム型チョルスーバザールへと案内してくれました。
ドームの中は流石にだだっ広く、2階から見渡すと生鮮市場、雑貨、衣類etc…等の分野別売り場が一望出来て、何重にも円形状に配置されており、隣り合う店同士の間には仕切り板も無いのでそれと覚しき店に立ち止まろうものならば、あちこちから「うちの方が安いよ〜」と、まくし立てる喧騒です。
各売り場から「ザフラン安いよ〜」との声に反応して近づくと、それは袋にぎっしりと詰め込まれた紅花の乱花でした。それでも私には大き過ぎるから「半分にして〜」と言えば、「OKいいよ。これ100g200円!」と申します。
「ほんと〜!安いっ!では買いましょう。でもこれはサフランではなく紅花よ?」と言うと、売り子はニヤリ。
日本で紅一匁金一匁(一匁=3.75g、五円玉=3.75g) シルクロードサフラン1g=金1g
サフランが高価な理由は雌蕊3本の柱頭のみがあの独特の香りと味があり、その摘取作業には熟練技術と、短期間に乾燥、密閉する必要がある。例えばこの乾燥サフラン1ポンド (0.45kg) の収穫にはサッカー会場と同程度の耕作面積に約5万~7.5万本の花を咲かせる必要がある。
また、1kgの乾燥サフランを得るには約40時間を必要とし、収穫期には驚異的な忙しさとなる。例えばカシミールでは、何千もの農作業者が1週間から2週間の間、昼夜を通したシフト勤務で収穫を行う。
「貴女はよく分かるね〜此処では此れをザフランというのだよ…本物は高いよ〜」と押し問答していると、隣から「これが本物だよ〜」と差し出されたのが掌に載せた丸い透明プラスチックケースに入ったまさしく本物サフランでした。「これ、1g2200円ね」「えっ!随分高いわね〜」
「高くないよ!何処でもおなじ!こっちのザフランは本物、ゴールドと同じで高い」と言うので、では、日本の『紅一匁金一匁』がシルクロードでは『サフラン1g=金1g』になっているのね?…と渋々購入。
驚きました。ご当地ではサフランは紅花の100倍の価値があるのです。正しく逆転。特にイスラム圏諸国では、その黄色の色素と気高い香りこそ、アッラーの神への捧げものでした。
(次号へ続く)
風土・色彩文化研究所主宰
日原 もとこ
プロフィール
東北芸術工科大学名誉教授、広島県出身。女子美大卒。61 年通産省工業技術院産業工芸試験所技官。豪州国メルボルン王立工科大学政府派遣研究員。帰国後製品科学研究所主任研究官を経て92 年東北芸術工科大教授就任。専門は環境色彩学。このほか風土・色彩文化研究所を主宰、県建築サポートセンター社長、アジア文化造形学会会長、日本デザイン学会及び日本インテリア学会名誉会員。著書、訳書に色彩療法 (単行本)テオ・ギンベル(著)日原もとこ(翻訳)等
協力(順不同・敬称略)
特定非営利活動法人 ACT.JT(アクトジェイティ)
〒170-0013 東京都豊島区東池袋5-7-4 マーブル東池袋7F 電話:03-6914-0325
「鼎」制作:赤坂明子
谷地八幡宮 〒999-3511 山形県西村山郡河北町谷地224電話:0237-72-2149
八坂神社 〒605-0073 京都府京都市東山区祇園町北側625 電話:075-561-6155
外務省 〒100-8919 東京都千代田区霞が関2丁目2−1電話:03-3580-3311
※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。
発行元責任者 鎹八咫烏(ZIPANG TOKIO 2020 編集局)
紅花関連 アーカイブリンク記事をご覧ください。
ZIPANG TOKIO 2020
「~四神相応の京~ 八坂神社と古都の町並み(その壱)」 八坂神社~青龍~
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/3981294
ZIPANG TOKIO 2020「八坂神社の祇園祭は平安66ヶ国にちなみ66本の鉾を立て、祇園の神を祀り、神輿を送って災厄の除去を祈ったことに始まる(その弐)」
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/3997331/
ZIPANG TOKIO 2020「カザフスタンの首都アスタナの都市計画は名古屋出身の建築家黒川紀章氏によるものです!」
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/1597081/
ZIPANG TOKIO 2020「2017 年アスタナ国際博覧会日本館のテーマは『Smart Mix with Technology ~オールジャパンの経験と挑 戦~』」
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ZIPANG TOKIO 2020
速報「2017年アスタナ国際博覧会がついに開幕 日本館が開館しました」
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/2543602/
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